2.1 マクドナルド レストラン名の発音
1940年にマクドナルド兄弟 (リチャードとモーリス) がカリフォルニア州のサン バーナディーノで始めた最初はバーベキュー レストランが世界的に発展したのがハンバーガー チェーン レストラン「マクドナルド」でずが、アメリカに居住したことがない日本人には、この店の英語名McDonal’s の発音が難しいようです。アメリカ人は [məkda’nəlz]のように第2音節に強勢アクセントを付けて発音します。
嘗て筆者がハワイ大学を早期定年退官後の昭和61年から平成12年までの14年間(1986 – 2000)日本の大学で英語を教えたときに学年最初のクラスで『日本にもアメリカのハンバーガー チェーン店のマクドナルドがありますが、アメリカでは「どのように発音する」か分かりますか』と質問して、50名ほどいるクラスの全員に一人ひとり発音してもらいました。
学生たちは、次から次へ真剣に発音してくれましたが、結果としては、一人も「正しく」発音できませんでした。学生たちは、次々に強勢アク
セントの位置を変えたりしながら発音してくれましたが、発音できませんでした。最後には、筆者も笑いながら『みんな、そんな発音をしていたら、「怒鳴るぞ」(ドナルぞ)』と学生たちに言ったことを懐かしく思い出します。
このアイルランド系の姓名は個人名Donald (ドナルド) の前にMac (マック) が付いていて「ドナルド」だけでも日本人には「難しい発音」 なのに、二重に厄介な発音なのでしょう。似たような発音にデズニーの「 ドナルド ダック」(Donald Duck) があります。
ちなみに、東京生まれの筆者が関西の大学で教鞭を執ったことで知り 得た「マクドナルド」の短縮名が関西では「マクド」で、関東では. 「マック」であることでした。
2.2 日本のカリウムは英語でポタシウム
日本では、ドイツ語からの外来語で「カリウム」(Kalium) と言いますが、英語では、BE (イギリス英語)でもAE (アメリカ英語)でも、Potassium 「ポタシウム」と言います。
筆者も、これらの区別が日米両言語で存在することは、翻訳の仕事で経験するまでは気が付きませんでした。日本に滞在していた時には「カリウム」は英語からの外来語と思っていましたが、渡米後は全くお目にかかったことがなかった単語で、ポタシウムと同一とは長い間気が付きませんでした。
2.3 日本の街にゴミ箱が無い
日本を訪問したことがあるアメリカ人に「日本の街の印象」を聞くと、「日本の街にはゴミ箱が無い」と言います。
多くの日本人は、日本の街の中でゴミ箱が無いのは、あの忌まわしいカルト集団「オーム真理教」による平成7 (1995) 年3月20日の「地下鉄サリン事件」以後のテロ対策として公共のゴミ箱が首都圏を中心に撤去されたことが原因であることを承知していますが、外国からの訪問者には「不思議なこと」として強く印象に残るのでしょう。それでも、一様に「ゴミ箱は無いけれど」街が綺麗だと言います。
2.4「アイ ラブ ユー」は家族の「絆ことば」
アメリカの家庭では、子供が小さい時から「アイ ラブ ユー」という表現を「家族の絆」を保つ表現として頻繁に使う慣習があります。子供の言語表現が未だ確立されていない乳幼児期から、日常頻度高く躾ける親が多いと言えます。子供も、親の表現に倣って、意味も分からず鸚鵡返しに、「アイ ラブ ユー トゥー」(I love you, too.) と応えます。筆者の孫の一人が「アイ ラブ ユー」と発音できずに、いつも「アイアイ ユー」と幼児期に発話していたことを今でも懐かしく思い出します。
そこで、アメリカ人は、子供の時からの言語習慣でもある「アイ ラブ ユー」を成人後も結婚後も、生涯を通して極く自然に発話すると言えるでしょう。
他方、日本では、このアメリカの言語習慣を「あなたを愛します」と額面通りに直訳してしまうのか、簡単には表現できない範疇にあると言えるでしょう。
筆者がハワイ大学を早期定年退官して日本の大学に籍を置いていたときに、時折日本の同僚教授と雑談中に『あなたは、奥さんに「アイ ラブ ユー」と言ったことがありますか』と聞いてみたことがありますが、殆どの人が「そのようなことは口にしたことがない」という返事でした。
しかし、一人の真面目な同僚教授が私のアメリカでの習慣を「まともに」解釈してくれて、或る冬の休日の日に炬燵に入っていた時に何回も そこを通る奥さんに、私から聞いた「夫婦円満対策」の「アイ ラブ ユー」と言うのを試したいと思い、一日中努力してみたが、『<恥ずかしくて>表現できなかった』と翌日の月曜日に私に大学で会ったときに苦笑しながら述懐してくれたのを今でも懐かしく思い出します。
2.5 英語の「会話表現」はドイツ語系の単語、「書き言葉」はラテン系の単語
日本語も中国語の影響を受けて「和語と漢語」があるように、元来「西ドイツ語系の英語」は、ラテン系言語の影響を受け、同じような意味を表すのに「いろいろな語彙」が混ざり合い、発展してきた言語と言えます。ちょうど、日本語が中国から表記文字としての漢字を導入した結果、日本語元来の「やまと言葉」を「訓読み」にし、漢字を基にして作られた「漢語」を「音読み」にしているのと同様の関係にあると言えます。
日本語で例を挙げると、「買う」と「購買」または「購入」が和語と漢語で、前者は会話表現として多く使われ、後者は書き言葉や「改まった表現」に使われると言えます。英語で同様な例を挙げると、buy (買う)と
purchase (購買、購入)になります。つまり、前者のbuy がゲルマン系言語の単語で、後者のpurchase がラテン系言語からの単語です。他にも、teach vs. educate, understand vs. comprehend などが例に挙げられます。
ときには、big とlarge のように、両方とも会話表現でもよく使われる単語も、前者がドイツ語系、後者がラテン系からですが、英語を母国語とする話者が使っているうちに「自然に」使い方を区別するようになっていると言えます。他にも、「痛み」を表すaches and pains は、前者がドイツ系、後者がラテン系ですが、使われているうちに、「軽い痛み」「強い痛み」を表すように変化したようです。
2.6日本語の動詞は複雑に変化する
日本語の動詞は、英語の動詞の変化と比較すると、はるかに複雑です。例えば、一例を挙げると、「(私は)そこへ行きたくなかったけれど、行かせられたので、行かなければならなかった」のような1文が考えられます。この文では、動詞の「行く」 (iku) そのものが複雑に変化しています。つまり、動詞の語尾に「願望、否定、使役、義務など」の付随的な意味が連結的に繋がっています。同じ表現を英語に訳してみると、それぞれ付随的な意味が1つの単語で表されていることが分かります。(参考英語文例は、
これと同じ表現を英語で表せば、”I didn’t want to go there, but I was forced to go, and I had to go.” のようになり、go は全く変化せず、そのまま使われています。
日本語のように、動詞の原形が変化して、他の語句が直接付随する言語を文法用語では「膠着 (こうちゃく) 言語」と言います。膠着言語には、日本語だけでなく、ほかにも、少し例をあげるだけでも、トルコ語、ウイグル語、モンゴル語、朝鮮語、フィンランド語、ハンガリー語などがあります。
2.7 英語は主語の使用が顕著です
膠着言語や敬語法のない英語は、主語の使用が顕著で、時には 「主語の使用」 が必要とされないような場合にも、「仮主語」 を使用しています。一例を挙げれば、「今日は良い天気です」 というような文では、文頭に仮主語の it を補って “It’s fine today.” などと表現します。また、人称代名詞の I, you, he/she なども、日本語で省略されることが多いのに、英語では頻度高く使用されます。 これらの観点から、英語は 「主語を重んじる言語」と言えます。日本語では、あまり 「私」 や 「あなた」 を使用すると、 逆に不自然な響きがあり、時として 「私がでしゃばり過ぎる」 印象を与えてしまうことにもなります。
2.8 言語音とは何か
どこの国や地域の言語でも、それぞれ異なる数と種類の言語音で成立しているのですが、結論から先に言うと、「言語音とは音素のこと」 と言えます。音素とは、言語学の分野の 「音韻論」 (phonology) あるいは 「音声学」 (phonetics) で使われる用語ですが、言い換えると 「音素とは音のクラス」 とも言えます。ごく大雑把に言うと、英語には、母音と子音を含めて約40の音素があり、日本語には、 半数の約20の音素があります (詳細は後で学習しましょう)。
2.9 日本語の「庭」は英語では何と言いますか
日本人に「庭」を「英語で何と言いますか」と聞くと、大多数の人が“garden” (ガーデン)と答えます。アメリカの庭は広く、通常「芝生」が植えられていて、yard (ヤード)と呼称され、garden (ガーデン)と区別しています。アメリカ人が「庭」をgardenというときには、「花壇」を意味するもので、「花や植物を植えた庭」を指しています。米国大統領のホワイトハウスの執務室の前に在る庭園は「ローズガーデン」と呼称され、歴代大統領が重要な発表や公式イベントを行う場所にもなっています。
他方、英国の多くの家庭では、土地の面積の関係か、芝生の庭より花壇が多いようで、gardenはイギリス英語によく使われる単語と言えるでしょう。イギリスの家庭と言うと、庭の面積はアメリカのそれと比較すると、はるかに狭いけれど、「美しい花が植えてある庭」が多いと言えます。ガーデニングはイギリスの伝統文化とも言えます。薔薇の花 (ローズ)はイギリスを代表する花です。
2.10 強勢アクセントとピッチ アクセント
通常「アクセント」(accent) と言っているのは、「アクセント体系」 のことで、英語では「強勢」(つまり、ストレス (stress) のこと)、日本語では 「ピッチ」(つまり「高音」(周波数の高いこと) のことです。英語の場合は、音の 「強さ」 と 「弱さ」を使い、 日本語の場合には、音の 「高さ」 と 「低さ」 を、それぞれのアクセント体系の中で 使っていることになります。例えば、「すきやき」 は suKIYAKI となり、語頭音節の su だけが低く、残りの音節が高いピッチで発音されます。前述のMcDonald は、第2音節に強制がかかり [məkdánəld] になります。
そこで、日本人が英語を話す時には、特に練習段階では、かなりの音の 「強さ」 を意識して、強勢アクセント (stress accent) をつけなければなりません。それに反して、アメリカ人が日本語を聞くと、何か単調な響きを感じることになります。